民主文学報告


f:id:Tadahito-W:20171029202523j:image
f:id:Tadahito-W:20171029202542j:image

★延期になった今日の民主文学千葉支部定例会に提出予定だった報告。

民主文学2017年9月号
馬場雅史「廃坑のカナリアよ」
報告・渡部 唯人


作品の骨格

1 オッ君から山本に子供の誕生を報告する電話がかかってくる。
2 山本とオッ君との「家出」に関する経緯。
 −1 オッ君の家出。オッ君の悩み
 —2 山本がオッ君の家(おばさんの家)を訪問する。
 —3 山本とオッ君が清水沢へ家出する。
 —4 山本、オッ君、越前屋、北風の対話
3 オッ君が今後の決意を山本に伝えて電話を切る。



文学観・作品観

① 読者—読者の作品—作品—作者の作品—作者
② (主観)—(主観的作品)—(客観的作品1)
③ 客観的作品1—主観的作品1、主観的作品2、主観的作品3…
④ 複数の主観的作品相互の作用(コミュニケーション)から生まれる「客観的作品2」


・文芸作品の「読書」をどう考えるか。

・ 作品の主な印象 作品から個人が受け取る諸々の印象(心内に喚起された感情・情動)のうちで、主要なもの。「感動」「情感」「ポエジー」。読者の数だけありうる。
・ 主題=作品から導き出される一般的な意味=多くの人が受け取る「意味内容」。読者の数に限らす、一義であることを目指して確定される。
印象を喚起する命題。印象を言語化=論理化したもの。
・ 制作過程における、「作者の主題」「作者の動機」と、読者における内的・外的主題とは、異なるのが基本とする方法と、同一であるべきとする方法がある。—コミュニケーション論、他者論のタイプ。
・ 主題は、倫理的命題の形式を持つ。=作品は常に人間相互の関係活動(モノローグ的主題も複数の他者たちの中にある)における「感動」を表出するから。倫理とは人間の関係活動の論理であり、感動とは倫理的情動である。




本作に対する主な印象

・ オッ君の精神のたくましさに、熱い想いがこみ上げるのを感じた。


作品の主題

・生命の誕生はあらゆる人間の苦難や苦悩をも超越して精神を感動で満たし、感動は遠く離れた人と人とを結びつける。生命と感動とは価値高いものとして尊重されねばならない。

そのほか
・ タイトル、モチーフとなる「カナリア」のエピソードに既視感
(「廃坑」である点に特色)
・ 「感動」をめぐる構造=一種の芸術論としての作品。オッ君の、生命の誕生に接しての「感動」が、山本とのコミュニケーションの動機となる。その一連の経緯が、読者に感動を喚起する
・ オッ君の苦悩の叙述=苦悩への共感
・ 被差別者の連帯=「貝澤」姓とアイヌ
・ 北海道における朝鮮人の「強制労働」
・ 「苦悩」の論理的機能
・ 生命の誕生と責任の自覚=倫理的決断
・ オッ君の自己の存在に関す苦悩への一定の回答としての「子の誕生」。一生懸命生きていた証としての自己の生が、子供に引き継がれること。
・ 「寄り添う」ということ。ともに悩み、苦しみながら生きる。共苦。
・ 他者性、対話性=ポリフォニーと人物描写。
カナリアの啼き声としての、オッ君の電話。